2017年3月24日金曜日

軌跡を残すということ

ブログを辞めた後、肯定的なコメントをぽつぽつといただいて驚いております。少し考えたことがあり以下に書きます。

少し前まで大学生の面倒を見ていました。私とよく話が合う(つまりはイントロバートで考えすぎな)学生でした。ある日、「あなたは私のZen Teacherだ」と言われて驚きました。「それはどういう意味でしょうか?」と尋ねると「あなたは、日常のささいなことから何らかのネイチャーを見つけ出して、それを分かりやすいたとえ話で伝えてくれる。そういう能力を持った人に今まで会ったことが無く、特に同年代の子たちとはそういう会話ができない」と言います。「それは僕にとって良いことなのか?」と聞くと、「少なくとも私のようなタイプの人間にとっては、あなたのような人と話せるのはとても貴重である」と言い、続けて「なので、あなたは何らかの本を書くべきだと思う」と言われた。「本を書く?SF小説は書きたいけれど、Zen Teacher的な小説を書いても誰も読まないよ。世界中の全人口を相手にしても2000部くらいしか売れないんじゃない、ハハハ」と応じると、「でも、少なくとも2000人にとっては大事な本になると思うけれど」と言われた。まあ、自分の与太話がどこかの誰かの役に立つのならば楽しいかもしれない、と思った。つまり、やりがいがあるのかも、と思った。

コメントをいただいた後、そんなことを思い出しながらキャベツを切っていると(夕食の用意のため)、「やりがいとはなんだろうか」と考え始め、そこから「自分の生きている証のようなものか」となり、「自分の人生の軌跡を世界に残すということか」と思うようになった。

100年人生。私は、統計的にはあと50年は生きられる筈だけれど、統計的にはある程度の確率で明日死ぬかもしれない。つまり、私は今後50年のどこかの段階でプツリとこの世界から消えてしまうのだ。そして、その直後、私の軌跡はどこかに残る。それは良い形をしているのか醜いモノなのか。どうせなら、良い軌跡をざっくりと残したい。

ソモソモ、自分の研究態度もそうなのかもしれない。誰に相手にされなくても流行りではなくても、自分が興味を持ち大事だと思うことを、数十年後くらいに役に立つことを期待して、コツコツと作業をしている。金とか地位とかは無縁(そりゃあ、欲しいけれど)でも、自分のサイエンスがちゃんと形に残ってくれるならば満足だ。金や地位を得ても(そりゃあ、欲しいけれど、何度も書くけれど)、しょぼいサイエンスしかできずになんの軌跡も残せないのはつまらないな。もっとも、金も地位も軌跡もないサイエンスが一番ダメか。でも、自分のサイエンスは骨太だと信じている。

ブログで金儲けしやがってと嫌がらせしてくる人がいる。そんな研究をしてなんの意味があるの、いまだにポスドクでさ、と嫌味をいうファカルティがいる。一人親で娘さんが可哀想だと思いませんか、と、どうしようもない現実を嗤ってくる人がいる。悪意はどこにでもあり、悪意をばらまくことで自分の軌跡を作っている人は、結構多くいる。ヨワヨワな私は、その言葉1つ1つにすぐに傷ついて、少しずつ社会との交流を狭めていく。面倒だからブログを辞める。ポスドクだと馬鹿にされるから研究を辞める。一人親をからかわれたくないから、コミュニティに参加しない。そうやって少しずつ自分の痕跡を消していくのだ。

ブログを読んで考えさせられました、とネット経由で言ってくれる人がいる。あなたの研究は素晴らしい、研究のヒントをもらいました、と、学会でドイツの学生に言われて驚いた。子育ての先輩としてアドバイスをお願いします、と新米パパに言われた。私が、誰かに攻撃されて、自分のひ弱なナイーブな心を痛めてシクシクと泣いて「もう世の中なんて信じられないの」とヒステリックに自己陶酔すればするほど、こういう人たちとの関係も消えていく。つまり、損をするのは自分であり、私を好意的に見てくれる人たちだ。私は、間接的に、どこかのだれかの醜い軌跡を作るのを助けているということになる。悪意に屈してはいけないということだろうな。

人に迷惑をかけず、自分として生きて、自分にしか作れない軌跡を残して、それが誰かの役に立つのであれば、それって凄くない?、と思ったりする(けれど、金と地位も、もちろん、欲しい)。そういう風に生きていけたらどれだけ格好いいことだろうか。というか、大人はそうでなければいけない。ああ、そういえばオレはアラフィフの大人ではないか。俺ガイルとかガンダムとかばかり見ていて、自分がアラフィフだってことをすっかり忘れていた。


5 件のコメント:

  1. 少なくとも私には役立ってますよ、このブログ。肯定的な人が声を出さないと、ごく少数のノイジーマイノリティーにいろいろ潰されて世の中がどんどんつまらなくなってくるような気がしてならないですね。

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  2. ブログ続けてくれたら嬉しいです。毎日コツコツがんばっていらっしゃるのを読むと、私もコツコツがんばろうと思えて励まされてました。

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  3. 以前から、ほとんど毎日読ませて頂いており、毎日の楽しみの一つです。あなたが不遇の時であれ、良いことがあった日であれ、このブログを読んで私も頑張らねばと思います。あなたの経験、考えが私にはとても参考、力になっています。ですから、色々叩かれることがあるかもしれませんが、あなたのブログの更新を楽しみにしている方々もいるということを頭の片隅に置いて、堂々と、このブログが継続されることを願っています。

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  4. 忙しかったし、暫く閉鎖するものだと思ってましたが、再開おめでとうございます。そうですよ。同じ人生、人間ポジティブにいきなきゃ、損ですよ!図太く生きたもん勝ちだと僕は、思います。

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  5. コメントありがとうございます。図太く生きるのはなかなか難しいですが、なんとか折り合いをつけていこうと思います。

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