2017年3月26日日曜日

Ras

今日は昼前よりラボに行き、新しいプロジェクトの実験を行う。

合間にRasの勉強をする。

Rasは細胞増殖に関わっているタンパク質で、small GTPase と呼ばれるグループに属しており、GTPによって活性化される。活性化されたRasは別のタンパク質にシグナルを送り、このようなシグナル伝達の繰り返しにより細胞は制御される。稀に、Rasを構成しているアミノ酸配列に変異が生じることがある。そして、ある部位に変異が生じるとGTPに寄らずに常に活性化してしまい、そのためRas由来のシグナルは常にオンになる。Rasは細胞増殖に置いて重要な役割を担っているため、活性化されたRasのシグナルにより細胞は際限なく増え続ける。つまり腫瘍化である。ヒトの場合、癌の30%程度においてRasの変異が原因だと報告されている。そのため、2013年よりNIHはRasに特化したプログラムを立ち上げ、そのメカニズムを明らかにしようとしているが、いまだに不明な部分が多い。

私は、院生の時からある細胞現象をテーマにして研究を続けており、少しずつ核心に近づきつつある、そして最近、その中心にRasが存在していることが分かって来たのだ。なので今はムッシュムラムラ的にテンションが上がっていて、デカい敵に対峙している感がある。そういう強大な敵を相手にすると、自分がファカルティになれるかどうかなんて些細なことのように思えてくる(ちろんファカルティになれないのは自分に能力がないからであり、Rasがどうしたこうしたなんて関係ないのだけれど)。つまり、自分のような能力低め研究者が、そういう巨大なモノに対峙するには、贅沢は言っていられない、ということだ。

などというようなことをドーナツ(ロングジョン)を食べながら思うのであった。どのような実験が必要かをリストアップして、それらの優先順位を決めていく。どのテーマをターゲットにするかを考える。Rasに気づかれないようにひっそりと攻撃の準備をするのである。

4 件のコメント:

  1. ブログが続いていて嬉しい限りです。院生のときからテーマを続けておられるというのがすごいと思いました。大成している研究者の人たちは皆若いときからライフワーク足り得るテーマを決めているように見え、自分も決めないとだめなんだろうなと思いつつ、サイエンスの進展が早すぎ、目移りしすぎてなかなか決めることができません・・。

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  2. コメントありがとうございます。テーマは何度か変える機会があったのですが、何らかの形で同じネタを絡める格好になっています。で、振り返ると同じテーマを別の角度から追っていることになりました。アメリカでポジションを得るためには臨機応変にテーマを変えることは大事だと思います。あとグラント獲得にも。

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  3. グラントやポジションなどの必要に応じて、最善の方向にテーマを変えたようにみえても、あとから見るとちゃんとつながっている。ジョブズのコネクティングドットはやはり一つの真理なのかもしれませんね。30代の10年をどうするか悩んでるのですが、長期的に考えつつも目の前のことに最善を尽くすのが良いのかもしれません。

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    1. コメントありがとうございます。「無駄だと思っていたことが、後になって全てつながり、今回の成功を導いた」というのは成功者が良く使うフレーズですが、渦中の人間にとっては自身を客観的に見ることは難しですよね。もう少しで成功するのか、すでにアウトの状態で自信過剰なだけなのか、判断するのはほとんど無理です。なので、主観的になり、自分の状況をただ楽しんで挑戦するしかないと考えます。

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